賃上げ促進税制の活用方法|中小企業が従業員の給与を上げて節税する仕組み


「従業員の給与を上げたいけれど、会社の負担が大きくて踏み切れない」「人件費が増えると利益が減って法人税は減るけれど、もっと効果的に節税できる方法はないのか」――そんな悩みを抱える中小企業経営者の方は少なくありません。実は、従業員の給与を上げることで税額控除を受けられる「賃上げ促進税制」という制度があり、上手に活用すれば会社の税負担を大幅に軽減できる可能性があります。

この記事では、賃上げ促進税制の仕組みから、具体的な適用要件、税額控除の計算方法、さらには申請手続きまで、中小企業経営者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。令和6年度税制改正の最新情報も含め、実務で活用できる知識をお届けします。

会計屋.comでは、中小企業の経理担当者や経営者の皆さまに向けて、税制や会計に関する正確でわかりやすい情報を発信しています。賃上げ促進税制を正しく理解して、従業員の待遇改善と会社の節税を同時に実現しましょう。

賃上げ促進税制とは?基本的な仕組みを理解する

賃上げ促進税制とは、中小企業が従業員の給与等を増加させた場合に、法人税(個人事業主の場合は所得税)から税額控除が受けられる制度です。正式名称は「中小企業向け所得拡大促進税制」といい、令和4年度税制改正で大幅に拡充されました。

賃上げ促進税制の仕組みを示す図解
賃上げ促進税制で給与アップと節税を同時実現

従来の所得拡大促進税制からの進化

賃上げ促進税制は、以前の「所得拡大促進税制」を引き継ぐ形で創設されました。従来制度では適用要件が複雑で、多くの中小企業にとって使いづらい面がありましたが、令和4年度以降は要件が簡素化され、より多くの企業が活用できるようになっています。

ポイント: 賃上げ促進税制は単なる経費計上ではなく「税額控除」です。法人税額から直接差し引けるため、節税効果が非常に大きいのが特徴です。例えば、法人税額が100万円ある場合、30万円の税額控除を受けられれば納税額は70万円になります。

対象となる企業

賃上げ促進税制は主に以下の企業が対象となります。

  • 青色申告書を提出している中小企業者等(資本金1億円以下の法人など)
  • 常時使用する従業員がいる個人事業主
  • 農業協同組合、協同組合など一定の組合

大企業向けには別途「大企業向け賃上げ促進税制」があり、要件や控除率が異なります。

賃上げ促進税制の適用要件|どうすれば税額控除を受けられるのか

賃上げ促進税制で税額控除を受けるには、いくつかの要件を満たす必要があります。令和6年度税制改正に基づく最新の要件を詳しく見ていきましょう。

基本要件:給与等支給額の増加率

最も重要な要件は、「雇用者給与等支給額」を前年度と比較して一定割合以上増加させることです。

増加率 税額控除率
1.5%以上 給与増加額の15%
2.5%以上 給与増加額の30%
計算例: 前年度の給与総額が5,000万円、当年度が5,100万円の場合、増加率は2%(100万円÷5,000万円)です。この場合、15%の税額控除が適用され、100万円×15%=15万円が法人税から控除されます。

上乗せ要件:さらに控除率を上げる方法

基本の税額控除率に加えて、以下の要件を満たすとさらに控除率が上乗せされます。

賃上げ促進税制の上乗せ要件を示す表
上乗せ要件を満たすと最大40%の税額控除に
上乗せ要件 追加控除率
教育訓練費が前年度比10%以上増加 +10%
くるみん認定・えるぼし認定を受けている +5%

つまり、給与増加率2.5%以上+教育訓練費10%以上増加の要件を満たせば、税額控除率は30%+10%=40%になります。

雇用者給与等支給額の定義

「雇用者給与等支給額」に含まれるものと含まれないものを正確に理解することが重要です。

  • 含まれるもの:俸給、給料、賃金、賞与、その他これらの性質を有する給与
  • 含まれないもの:役員報酬、退職金、使用人兼務役員の役員部分、雇用保険の対象とならない者への給与
注意: パートやアルバイトへの給与も雇用者給与等支給額に含まれますが、役員やその親族への支払いは対象外です。また、短期雇用者(継続雇用期間が1年未満の者)の給与は計算から除外されるケースもあります。

▲ 賃上げ促進税制の計算方法をわかりやすく解説

実際の税額控除額の計算方法|シミュレーション付き

具体的な数字を使って、賃上げ促進税制による税額控除額を計算してみましょう。

基本パターン:給与増加率1.5%の場合

STEP 1: 前年度と当年度の給与総額を確認
前年度:4,000万円
当年度:4,080万円
STEP 2: 増加率を計算
(4,080万円 – 4,000万円) ÷ 4,000万円 = 2.0%
→ 1.5%以上なので基本要件クリア
STEP 3: 税額控除額を計算
給与増加額:80万円
控除率:15%(2.0%は1.5%以上2.5%未満のため)
税額控除額:80万円 × 15% = 12万円

上乗せパターン:給与増加率2.5%+教育訓練費増加の場合

項目 前年度 当年度 増加率
給与総額 5,000万円 5,150万円 3.0%
教育訓練費 50万円 60万円 20%

この場合の税額控除額は:

  • 給与増加額:150万円
  • 基本控除率:30%(2.5%以上のため)
  • 上乗せ控除率:10%(教育訓練費10%以上増加)
  • 合計控除率:40%
  • 税額控除額:150万円 × 40% = 60万円