クラウド会計での複数人経理体制の作り方|権限設定と承認フロー設定の実例


個人事業主や中小企業が成長すると、「もう一人では経理処理が追いつかない」「税理士や経理担当者にも会計データを触ってもらいたい」という悩みが出てきます。しかし、複数人で会計ソフトを使うとなると、誰がどこまで操作できるのか、誤入力や不正をどう防ぐのか、承認フローはどう設定すればいいのかなど、疑問は尽きません。この記事では、クラウド会計ソフトで複数人の経理体制を構築するための権限設定と承認フロー設定の実例を徹底解説します。freee・マネーフォワードクラウド・弥生会計オンラインの3大ソフトごとの具体的な設定手順、業種別・規模別のベストプラクティス、そしてトラブル事例まで網羅しているので、あなたのビジネスに最適な経理体制がすぐに作れます。税理士との連携方法や経理担当者の育成ノウハウも含め、会計屋.comが日本一詳しくお伝えします。

なぜ複数人経理体制が必要なのか|1人経理のリスクと限界

事業が軌道に乗ってくると、会計業務の量は急速に増加します。請求書発行、入金確認、経費精算、給与計算、月次決算と、一人ですべてを処理するには限界があります。さらに、1人経理には構造的なリスクが潜んでいます。

複数人経理体制のメリットを示す比較図
1人経理と複数人経理の業務効率とリスク比較

1人経理の主要リスク5つ

  • 属人化リスク:経理担当者が休職・退職した際に業務が完全にストップし、どこに何があるのか誰もわからなくなる
  • 不正リスク:チェック機能が働かず、横領や架空経費計上などの内部不正が発生しやすい(中小企業の不正の約60%は経理部門で発生)
  • ミス発見の遅延:ダブルチェック体制がないため、入力ミスや計算ミスが決算直前まで発見されない
  • 業務過多による精度低下:繁忙期には処理が追いつかず、帳簿の精度が低下し、税務リスクが高まる
  • スキル継承の断絶:経理ノウハウが共有されず、次世代への引き継ぎが困難になる

複数人体制への移行タイミング

以下のいずれかに該当したら、複数人経理体制への移行を検討すべきです。

規模指標 目安 推奨体制
年商 3,000万円以上 経理担当者+承認者の2名体制
従業員数 10名以上 経理担当+税理士の連携体制
月次取引件数 200件以上 入力者+チェック者の分業体制
拠点数 2拠点以上 拠点ごとの入力者+本社承認者
経理処理時間 月40時間以上 複数人での分担体制

複数人体制のメリットとROI

複数人経理体制を導入すると、初期コストはかかりますが、中長期的には大きなリターンが得られます。

ポイント: 年商5,000万円の企業が複数人体制に移行した場合、月次決算の早期化により資金繰り判断が1週間早まり、年間で約150万円の金利負担削減効果が出たという事例があります(2023年中小企業庁調査)。

クラウド会計ソフトの権限設定の基本構造

クラウド会計ソフトで複数人体制を構築するには、まず権限設定の基本構造を理解する必要があります。主要な3つのソフト(freee・マネーフォワードクラウド・弥生会計オンライン)はそれぞれ異なる権限設定の思想を持っています。

権限設定の3つの基本要素

どのクラウド会計ソフトでも、権限設定は以下の3要素で構成されています。

  • ユーザー(Who):誰がシステムにアクセスできるか(メールアドレスベースで招待)
  • 役割・権限レベル(What):各ユーザーが何をできるか(閲覧のみ、入力可能、承認可能、管理者など)
  • データスコープ(Where):どの範囲のデータにアクセスできるか(全社、特定部門、特定プロジェクトなど)
クラウド会計ソフトの権限設定の構造図
権限設定の3要素と相互関係

主要クラウド会計ソフトの権限設定モデル比較

ソフト名 権限レベル数 特徴 推奨利用企業
freee 4段階 シンプルで直感的、プロジェクト別権限も設定可能 ITリテラシー低めの企業
マネーフォワード 7段階 詳細なカスタマイズ可能、部門別・機能別に細かく設定 複雑な組織構造の企業
弥生会計オンライン 3段階 シンプル、税理士連携に特化 税理士主導の記帳代行型企業

権限設計の基本原則「最小権限の原則」

情報セキュリティの観点から、権限設定では「最小権限の原則(Principle of Least Privilege)」を適用すべきです。これは「業務に必要な最小限の権限のみを付与する」という考え方で、不正やミスのリスクを最小化できます。

注意: 「とりあえず全員に管理者権限を付与」という運用は絶対に避けてください。過去の事例では、退職した元従業員が管理者権限を悪用して会計データを改ざんしたケースもあります。権限は必要最小限に、退職時には即座に削除する運用が鉄則です。

▲ クラウド会計ソフトの権限設定基礎解説(初心者向け)

freeeでの複数人経理体制の構築方法

freeeは直感的なUIと柔軟な権限設定が特徴で、スタートアップから中小企業まで幅広く利用されています。ここではfreeeでの具体的な複数人経理体制の構築手順を解説します。

freeeの4つの権限レベルと使い分け

freeeでは以下の4つの権限レベルが用意されています。

権限レベル できること 推奨付与対象 月額費用
管理者 すべての操作、ユーザー管理、契約変更 経営者、経理責任者 無料
一般 取引入力、申請、レポート閲覧(承認不可) 経理担当者、営業担当者 月額300円
閲覧のみ レポート・帳簿の閲覧のみ(入力不可) 経営幹部、監査役 無料
アドバイザー 閲覧・入力・承認(契約変更不可) 顧問税理士、会計事務所 無料
freeeの権限設定画面のスクリーンショット
freeeのメンバー招待と権限設定画面

freeeでのユーザー招待と権限設定の手順

STEP 1: 管理者権限でfreeeにログイン後、右上の設定アイコンから「事業所の設定」→「メンバー」を選択
STEP 2: 「メンバーを招待」ボタンをクリックし、招待する人のメールアドレスを入力
STEP 3: 権限レベルを選択(管理者/一般/閲覧のみ/アドバイザー)
STEP 4: 必要に応じて「プロジェクト・部門の制限」を設定(有料プランのみ)
STEP 5: 招待メールが送信され、相手が承認すると利用開始

freeeでの承認フロー設定(プレミアムプラン以上)

freeeのプレミアムプラン(年額39,800円~)以上では、経費申請や支払依頼の承認フローを細かく設定できます。

  • 申請ルート設定:金額別、部門別に異なる承認ルートを設定可能
  • 多段階承認:最大5段階までの承認ステップを設定可能(例:申請者→課長→部長→経理→社長)
  • 代理承認:承認者が不在時の代理承認者を事前に設定可能
  • 自動仕訳連携:承認完了と同時に自動で仕訳が計上される設定も可能
ポイント: freeeの承認フローは「金額による分岐」が可能で、5万円未満は課長承認のみ、5万円以上は部長承認も必要、といった柔軟な設定ができます。この機能により、小口経費の処理スピードが平均40%向上したという導入事例があります。

実例:従業員15名の飲食店での体制

東京都内で3店舗を運営する飲食チェーンA社(従業員15名、年商1.5億円)の事例を紹介します。

役割 人数 freee権限 主な業務
経営者 1名 管理者 最終承認、月次レポート確認
経理担当 1名 管理者 月次決算、給与計算、税務申告準備
店長(3店舗) 3名 一般(店舗別制限) 日次売上入力、経費申請
顧問税理士 1名 アドバイザー 月次チェック、税務アドバイス

この体制により、月次決算の確定が従来の月末から20日に早まり、資金繰り判断のスピードが大幅に向上しました。

freeeでの会計ソフト比較については、freee vs マネーフォワード vs 弥生|個人事業主向け会計ソフト徹底比較2024で詳しく解説しています。

マネーフォワードクラウドでの複数人経理体制の構築方法

マネーフォワードクラウド会計は、より複雑な組織構造に対応できる詳細な権限設定が特徴です。上場準備企業や50名以上の組織でも対応できる柔軟性があります。

マネーフォワードクラウドの権限設定体系図
マネーフォワードクラウドの7段階権限レベル

マネーフォワードクラウドの7段階権限設定

マネーフォワードクラウドでは、業務内容に応じて7つの権限レベルが用意されています。

権限レベル 主な機能 推奨対象
事業者管理者 すべての操作、課金・契約管理、メンバー管理 経営者、CFO
管理者 すべての会計操作、メンバー追加(課金変更不可) 経理部長、経理責任者
経理担当 仕訳入力、帳簿確認、レポート作成 経理スタッフ
申請者 経費申請、証憑アップロード(仕訳入力不可) 一般従業員
承認者 経費申請の承認、レポート閲覧 部門長、マネージャー
閲覧者 レポート・帳簿の閲覧のみ 経営幹部、監査役
カスタム 機能ごとに個別カスタマイズ可能 特殊な業務要件がある場合

部門・セグメント別のアクセス制限設定

マネーフォワードクラウドの強みは、部門やセグメント(事業部、プロジェクト、拠点など)ごとに細かくアクセス制限を設定できる点です。

  • 部門別アクセス制限:営業部のメンバーは営業部の経費のみ閲覧・申請可能
  • セグメント別制限:EC事業担当者はEC事業の収支レポートのみ閲覧可能
  • 勘定科目別制限:特定の勘定科目(役員報酬など)は管理者のみ閲覧可能に設定
  • 期間別制限:決算確定後の期間は一般メンバーの編集を禁止
ポイント: マネーフォワードクラウドでは「セグメントマトリクス」機能により、部門×プロジェクト×地域などの多次元でデータを管理できます。これにより、東京支店のA事業部のプロジェクトXの収支、といった詳細な分析が可能になります。

マネーフォワードクラウドでの承認フロー設定

マネーフォワードクラウドの経費申請・支払依頼では、非常に柔軟な承認フローが設定できます。

STEP 1: 「経費精算」→「設定」→「承認経路」を選択
STEP 2: 承認ルートを新規作成し、条件を設定(金額、部門、経費科目など)
STEP 3: 各ステップの承認者を指定(個人指定、役職指定、グループ指定が可能)
STEP 4: 条件分岐を設定(例:10万円以上は役員承認を追加)
STEP 5: 差戻し・却下時のルールを設定
マネーフォワードクラウドの承認フロー設定画面
マネーフォワードクラウドの承認経路設定画面例

実例:従業員50名のIT企業での体制

東京都のソフトウェア開発会社B社(従業員50名、年商4億円)の事例です。

部門・役割 人数 権限レベル アクセス範囲
CFO 1名 事業者管理者 全社データ
経理部(部長) 1名 管理者 全社データ
経理部(スタッフ) 2名 経理担当 全社データ(役員報酬除く)
各部門長 5名 承認者 所属部門データのみ
一般社員 40名 申請者 自分の経費申請のみ
顧問税理士 1名 閲覧者(カスタム) 全社データ(編集不可)

この体制により、部門別損益管理がリアルタイムで可能になり、四半期ごとの事業戦略見直しがスムーズになりました。経費申請から承認までの期間も平均5日から2日に短縮されています。

▲ マネーフォワードクラウドの権限設定と承認フロー実践ガイド

弥生会計オンラインでの複数人経理体制の構築方法

弥生会計オンラインは、税理士との連携を重視したシンプルな権限設定が特徴です。複雑な承認フローよりも、税理士と企業の役割分担を明確にすることに重点を置いています。

弥生会計オンラインの3段階権限設定

弥生会計オンラインでは、シンプルに3つの権限レベルのみです。

権限レベル 主な機能 推奨対象 ユーザー追加料金
管理者 すべての操作、契約管理、ユーザー管理 経営者、経理責任者 無料
ユーザー 仕訳入力、帳簿閲覧(設定変更不可) 経理スタッフ 年額4,000円/人
税理士・会計事務所 閲覧・入力・修正(契約変更不可) 顧問税理士 無料
弥生会計オンラインの権限設定画面
弥生会計オンラインのユーザー管理画面

弥生会計オンラインでの税理士連携設定

弥生会計オンラインは「弥生PAP会員」という認定税理士ネットワークとの連携に強みがあります。

STEP 1: 弥生会計オンラインにログイン後、「設定」→「事業所設定」→「ユーザー管理」を選択
STEP 2: 「税理士・会計事務所を招待」ボタンをクリック
STEP 3: 税理士のメールアドレスまたは事務所コードを入力
STEP 4: 税理士側で承認すると、自動的にデータ共有が開始
ポイント: 弥生PAP会員の税理士は、複数のクライアント企業を一元管理できる専用ツール「弥生PAP会員専用ページ」を利用できます。これにより、税理士が効率的に複数社の記帳チェックを行い、企業側は専門家の監視下で正確な帳簿を維持できます。

実例:従業員5名の製造業での体制

埼玉県の金属加工業C社(従業員5名、年商8,000万円)の事例です。

  • 社長:管理者権限、月次レポート確認と経営判断
  • 経理担当(パート):ユーザー権限、日次の仕訳入力と請求書発行
  • 顧問税理士:税理士権限、月次チェックと決算書作成

この体制は非常にシンプルですが、小規模事業者には十分です。社長が経営に集中し、経理パートが日常業務を処理し、税理士が専門的なチェックを行うという役割分担が明確で、月次決算も遅延なく完了しています。

業種別・規模別の最適な複数人経理体制モデル

ここでは、業種や企業規模に応じた具体的な経理体制モデルを紹介します。あなたのビジネスに最も近いモデルを参考に、体制構築を進めてください。

業種別・規模別の経理体制モデル比較表
主要業種における推奨経理体制の比較

【小規模】個人事業主・フリーランス(年商1,000万円未満)

この規模では、本人+税理士の2名体制が基本です。

役割 推奨ソフト 権限設定 業務内容
本人 freee個人事業主プラン 管理者 日々の記帳、レシート撮影
税理士 同上 アドバイザー 月次チェック、確定申告

【2024年版】個人事業主の確定申告やり方完全ガイド|初めてでも安心の手順では、このレベルの経理業務の全体像を解説しています。

【中小規模】法人(従業員10-30名、年商1-3億円)

この規模では、専任または兼任の経理担当者を置き、3-4名体制が標準です。

役割 推奨ソフト 権限設定 業務内容
経営者 マネーフォワードクラウド 事業者管理者 月次レポート確認、最終承認
経理担当 同上 経理担当 日次記帳、月次決算、給与計算
営業・総務担当 同上 申請者 経費申請、証憑アップロード
税理士 同上 閲覧者 月次監査、税務申告、アドバイス

【中堅規模】法人(従業員50-100名、年商5-10億円)

この規模では、経理部門を組織化し、部門別管理が必要になります。

部門・役割 人数 推奨ソフト 権限設定
CFO/経理部長 1名 マネーフォワードクラウド 事業者管理者
経理課(入力担当) 2-3名 同上 経理担当
経理課(チェック担当) 1名 同上 管理者(カスタム)
各部門長 5-7名 同上 承認者(部門別制限)
一般社員 全員 同上 申請者
監査役・社外取締役 2-3名 同上 閲覧者
税理士・会計士 1-2名 同上 閲覧者(カスタム)

業種別の特殊な権限設定例

業種によって、特有の権限設定が必要になるケースがあります。

  • 飲食業:店舗ごとに入力者を設定し、店舗別の売上・経費のみ閲覧可能にする。本部経理が全店舗データを統合管理
  • 不動産業:物件ごとにセグメント設定し、物件管理担当者は担当物件の収支のみ閲覧・入力可能
  • 建設業:プロジェクトごとにセグメント設定し、現場監督は担当プロジェクトの原価管理のみ実施
  • 医療・介護:患者情報保護の観点から、閲覧権限を厳格に制限。診療報酬請求担当のみが特定データにアクセス
  • EC・小売:在庫管理システムと連携し、仕入担当は仕入関連の仕訳のみ閲覧・入力可能

フリーランスエンジニアの経費はどこまでOK?認められる経費一覧と節税術では、フリーランス特有の経費処理について詳しく解説しています。

承認フロー設計の実践|金額別・部門別の設定例

承認フローの設計は、内部統制とスピードのバランスが重要です。過度に複雑にすると業務が遅延し、単純すぎると不正リスクが高まります。

承認フローの設計パターン図
金額別・部門別の承認フロー設計例

金額別承認フローの標準モデル

金額によって承認レベルを変える「金額閾値方式」が最も一般的です。