7月になって税務署から「予定納税のお知らせ」が届き、「なぜ今年も税金を払わなければいけないの?」と驚いた個人事業主やフリーランスの方も多いのではないでしょうか。予定納税は前年の所得が一定額を超えた人に課される制度で、事前に知らないと資金繰りに大きな影響を与えることもあります。この記事では、予定納税の仕組みから対象者の基準、減額申請の方法、払えない場合の対処法まで、税理士監修のもと徹底的に解説します。予定納税通知が届いた方はもちろん、今後の事業計画を立てる上でも必須の知識が身につきますので、ぜひ最後までお読みください。
予定納税とは?基本の仕組みを理解する
予定納税とは、前年の所得税額が一定額以上だった場合に、今年の所得税を前払いする制度です。国税庁が定めるルールに基づき、年2回(第1期7月・第2期11月)に分けて納付します。
予定納税の目的と法的根拠
予定納税制度は所得税法第104条に規定されており、納税者の負担を分散させるとともに、国の税収を安定的に確保する目的があります。一度に多額の税金を納めるのではなく、年3回(予定納税2回+確定申告時1回)に分割することで、納税者・国双方にメリットがある仕組みです。
予定納税の対象者はどんな人?
予定納税の対象となるのは、前年の所得税の「予定納税基準額」が15万円以上の人です。予定納税基準額とは、前年の所得税額から源泉徴収税額や予定納税額を差し引いた金額を指します。
- 個人事業主・フリーランス
- 不動産所得がある人
- 副業収入が多いサラリーマン
- 株式譲渡益や配当所得が多い人
- 年金受給者で他の所得がある人
サラリーマンでも、不動産投資や副業で多くの所得がある場合は対象になる可能性があります。
予定納税額の計算方法
予定納税額は、前年の予定納税基準額を基に計算されます。具体的には以下の式で算出されます。
予定納税額(年間)= 予定納税基準額
第1期納付額 = 予定納税額 × 1/3
第2期納付額 = 予定納税額 × 1/3
確定申告時納付額 = 年間所得税額 – 第1期 – 第2期
たとえば、予定納税基準額が90万円の場合、第1期・第2期それぞれ30万円ずつ納付することになります。
| 予定納税基準額 | 第1期納付額(7月) | 第2期納付額(11月) | 年間合計 |
|---|---|---|---|
| 15万円 | 5万円 | 5万円 | 10万円 |
| 45万円 | 15万円 | 15万円 | 30万円 |
| 90万円 | 30万円 | 30万円 | 60万円 |
| 150万円 | 50万円 | 50万円 | 100万円 |
| 300万円 | 100万円 | 100万円 | 200万円 |
予定納税が免除される場合
以下のケースでは予定納税が免除されます。
- 廃業や休業により、今年の所得が大幅に減少する見込みの場合
- 災害や盗難により損失を受けた場合
- 減額申請を行い、承認された場合
- 前年の予定納税基準額が15万円未満の場合
減額申請については後のセクションで詳しく解説します。
予定納税いくらから?対象になる基準を詳しく解説
「予定納税 いくらから」という疑問は、多くの個人事業主やフリーランスが抱く最初の疑問です。明確な基準を理解することで、事前に資金計画を立てることができます。
予定納税基準額15万円の計算例
予定納税基準額は以下の計算式で求められます。
予定納税基準額 = 前年の所得税額 – 源泉徴収税額 – 復興特別所得税
具体的なケースで見てみましょう。
- 前年の課税所得:400万円
- 所得税額:372,500円(税率20% – 控除額427,500円)
- 源泉徴収税額:0円(取引先からの源泉徴収なし)
- 復興特別所得税:7,822円
- 予定納税基準額:364,678円
→ 15万円を超えるため、予定納税の対象となり、第1期・第2期それぞれ約12万円の納付が必要
所得別の予定納税対象ラインの目安
青色申告特別控除65万円を適用した場合の、所得と予定納税の関係を見てみましょう。
| 事業所得(収入-経費) | 青色控除後の所得 | 基礎控除後の課税所得 | 所得税額(概算) | 予定納税対象 |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 235万円 | 187万円 | 約9.4万円 | × |
| 400万円 | 335万円 | 287万円 | 約19.2万円 | ○ |
| 500万円 | 435万円 | 387万円 | 約37.2万円 | ○ |
| 600万円 | 535万円 | 487万円 | 約57.2万円 | ○ |
| 800万円 | 735万円 | 687万円 | 約107.4万円 | ○ |
※控除は基礎控除48万円と青色申告特別控除65万円のみを考慮した概算です。社会保険料控除やその他控除により実際の金額は異なります。
源泉徴収がある場合の計算
フリーランスの報酬から源泉徴収されている場合、予定納税基準額の計算が異なります。
- 前年の課税所得:350万円
- 所得税額:272,500円
- 源泉徴収税額:15万円(取引先が10.21%を源泉徴収)
- 復興特別所得税:5,722円
- 予定納税基準額:116,778円
→ 15万円未満のため、予定納税の対象外
源泉徴収されている場合、その分が予定納税基準額から差し引かれるため、所得税額が同じでも予定納税の対象にならないケースがあります。
予定納税通知が来ない場合もある?
以下のケースでは、予定納税基準額が15万円以上でも通知が来ない場合があります。
- 税務署のデータ処理上の遅延(稀なケース)
- 確定申告の修正申告により基準額が変動した場合
- 前年途中で開業し、年間所得が少ない場合
通知が来ない場合でも、自分で計算して15万円以上であれば納税義務が発生する可能性があるため、税務署に確認することをおすすめします。
▲ 予定納税の基準と計算方法をわかりやすく解説
予定納税通知が来たらすべきこと
7月初旬に税務署から「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の通知書」が届いたら、まず内容を確認し、適切な対応を取る必要があります。
通知書の見方と確認ポイント
予定納税の通知書には以下の情報が記載されています。
- 予定納税基準額:前年の所得税額に基づく金額
- 第1期納付額:7月1日~7月31日までに納付する金額
- 第2期納付額:11月1日~11月30日までに納付する金額
- 納付場所:税務署、金融機関、コンビニ、e-Taxなど
- 減額申請の期限:第1期分は7月15日まで、第2期分は11月15日まで
納付期限と納付方法
予定納税の納付期限は以下の通りです。
| 納付期 | 納付期限 | 納付割合 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 第1期 | 7月1日~7月31日 | 1/3 | 減額申請は7月15日まで |
| 第2期 | 11月1日~11月30日 | 1/3 | 減額申請は11月15日まで |
| 確定申告時 | 翌年2月16日~3月15日 | 残り1/3+精算 | 実際の所得税額との差額を精算 |
納付方法は以下の中から選択できます。
- e-Tax(電子納税):自宅からインターネットで納付可能、手数料無料
- コンビニ納付:30万円以下の場合、バーコード付き納付書で24時間納付可能
- 金融機関窓口:納付書を持参して納付
- クレジットカード:「国税クレジットカードお支払サイト」から納付(決済手数料あり)
- 振替納税:事前に登録すれば口座から自動引き落とし
- スマホアプリ決済:PayPay、LINE Pay等(30万円以下)
納付後の処理と記帳方法
予定納税を行った場合、会計帳簿にも記録する必要があります。ただし、予定納税は「経費」ではなく「資産」として計上します。
仕訳例:
借方:事業主貸 100,000円 / 貸方:普通預金 100,000円
または
借方:前払金(予定納税) 100,000円 / 貸方:普通預金 100,000円
確定申告時に精算され、最終的な所得税額が確定するまでは「前払い」の扱いとなります。
通知が来たのに無視したらどうなる?
予定納税通知を無視して納付しなかった場合、以下のペナルティが発生します。
- 延滞税:納期限の翌日から年率最大14.6%(令和5年は特例により年8.7%~14.6%)
- 督促状の送付:納期限後20日以内に督促状が届く
- 財産の差押え:督促状送付後10日を経過しても納付しない場合、差押えの可能性
予定納税の減額申請とは?承認される条件
今年の所得が前年より大幅に減少する見込みの場合、予定納税額の減額申請を行うことができます。この制度を正しく活用すれば、不必要な税金の前払いを避け、資金繰りを改善できます。
減額申請が認められるケース
以下のような状況では、減額申請が承認される可能性が高くなります。
- 廃業・休業:年の途中で事業を廃止または長期休業した場合
- 業績悪化:売上が大幅に減少し、所得が前年より明らかに少ない見込みの場合
- 災害・盗難:災害や盗難により事業用資産に損失が発生した場合
- 医療費の増加:多額の医療費支出により所得控除が増える場合
- 扶養家族の増加:扶養親族が増え、控除額が増加した場合
- 設備投資:大規模な設備投資により減価償却費が増加する場合
- 前年所得:600万円(所得税額57万円)
- 予定納税額:年間38万円(第1期・第2期各19万円)
- 今年の見込み:主要クライアントとの契約終了で所得300万円見込み
- 見込み所得税額:約19万円
→ 減額申請により予定納税額を年間12万円程度に減額できる可能性あり
減額申請の手続き方法
減額申請は以下の手順で行います。
国税庁のホームページからダウンロード、または税務署で入手できます。正式名称は「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」です。
6月末または10月末までの実績をもとに、年間の所得を見積もります。売上台帳、経費帳簿などを準備しましょう。
見込み所得額、所得控除額、見込み税額などを記載します。計算根拠となる資料(損益計算書など)も添付します。
第1期分の減額:7月15日まで
第2期分の減額:11月15日まで
郵送、e-Tax、税務署窓口のいずれかで提出します。
通常、提出から2~3週間程度で承認・不承認の通知が届きます。承認されれば、減額後の金額を納付します。
減額申請に必要な書類
申請時には以下の書類を準備しましょう。
| 書類名 | 内容 | 必須/任意 |
|---|---|---|
| 予定納税額の減額申請書 | 正式な申請用紙 | 必須 |
| 損益計算書(見込み) | 年間の収入・経費の見込み | 推奨 |
| 売上台帳・経費帳簿 | 実績を証明する資料 | 推奨 |
| 医療費の領収書(該当者) | 医療費控除を受ける場合 | 任意 |
| 罹災証明書(該当者) | 災害による損失の証明 | 任意 |
減額申請が却下される理由
以下のような場合、減額申請が認められないことがあります。
- 見込み計算が不合理で根拠が不明確
- 前年と比較して所得減少の理由が不明
- 提出期限を過ぎている
- 必要書類が不足している
- 計算ミスや記入漏れが多い
減額申請後の確定申告での注意点
減額申請が承認されて納付額を減らした場合、翌年の確定申告時に注意が必要です。
- 実際の所得が見込みより多かった場合、不足税額に延滞税がかかる可能性がある
- 見込みと実績の乖離が大きすぎると、次回以降の減額申請が認められにくくなる
- 減額後の金額で計算されるため、確定申告時の納付額が増える
減額申請は慎重に、合理的な根拠に基づいて行いましょう。
▲ 予定納税減額申請の手続きを実際の書類で解説
予定納税が払えない場合の対処法
予定納税の通知が来たものの、資金繰りの都合で納付が難しい場合もあります。そんな時に取るべき対策と、絶対にやってはいけないことを解説します。
まず検討すべき3つの選択肢
予定納税が払えない場合、以下の順序で対策を検討しましょう。
今年の所得が前年より少ない見込みであれば、まず減額申請を検討します。期限は第1期が7月15日、第2期が11月15日です。
災害、病気、事業の廃止などやむを得ない理由がある場合、納税の猶予が認められることがあります。最長1年間、納税を猶予され、延滞税も軽減されます。
税務署の窓口で相談すれば、分割納付を認めてもらえる場合があります。ただし、延滞税は発生します。
納税の猶予制度とは
納税の猶予制度は、以下の要件を満たす場合に利用できます。
- 災害や盗難により財産に損失を受けた場合
- 納税者または家族が病気やけがをした場合
- 事業を廃止・休止した場合
- 事業に著しい損失を受けた場合
- 上記に準ずる事実がある場合
| 猶予の種類 | 適用条件 | 猶予期間 | 延滞税 |
|---|---|---|---|
| 災害等による猶予 | 災害・盗難により納税困難 | 最長1年 | 免除 |
| 換価の猶予 | 納税により事業継続が困難 | 最長1年 | 軽減(年1.0%程度) |
| 納税の猶予 | 一時的に納税資金の調達が困難 | 最長1年 | 軽減(年1.0%程度) |
猶予の申請には、「納税の猶予申請書」と財産収支状況書、猶予を受ける理由を証明する書類(診断書、罹災証明書など)が必要です。
分割納付を相談する際のポイント
税務署に分割納付を相談する際は、以下のポイントを押さえましょう。
- 早めに相談する:納期限前に相談することで、誠意が伝わりやすい
- 具体的な納付計画を提示する:「いくらずつ、いつまでに納付できるか」を明確に
- 資金繰り表を用意する:今後の収入・支出見込みを示す
- 誠実な態度で臨む:税務署職員も人間。誠実に対応すれば柔軟に対応してくれることも
やってはいけない対応
以下の対応は絶対に避けましょう。
通知を無視しても納税義務は消えません。延滞税が膨らみ、最悪の場合は財産差押えに至ります。
実際には所得があるのに、虚偽の申請で減額を受けると、重加算税などのペナルティが科される可能性があります。
高金利での借入れは、資金繰りをさらに悪化させます。税務署への相談を優先しましょう。
延滞税の計算方法
予定納税を期限内に納付しなかった場合の延滞税は、以下のように計算されます。
令和5年の延滞税率(年率)
- 納期限の翌日から2か月以内:年2.4%
- 納期限の翌日から2か月経過後:年8.7%
計算式
延滞税額 = 本税額 × 延滞税率 × 延滞日数 ÷ 365日
- 最初の2か月:200,000円 × 2.4% × 60日 ÷ 365日 = 約789円
- 残りの1か月:200,000円 × 8.7% × 30日 ÷ 365日 = 約1,430円
- 合計延滞税:約2,219円
延滞期間が長くなるほど延滞税は増えていくため、早期の対応が重要です。
予定納税の計算を自分で行う方法
予定納税通知が来る前に、自分で予定納税額を計算しておくことで、資金計画が立てやすくなります。ここでは、具体的な計算手順を解説します。
予定納税基準額の算出手順
以下の5ステップで予定納税基準額を計算できます。
確定申告書Bの第一表を見て、「所得税及び復興特別所得税の額」の欄を確認します。
同じく第一表の「源泉徴収税額」の欄を確認します。
予定納税基準額 = 所得税及び復興特別所得税の額 – 源泉徴収税額
予定納税基準額が15万円以上であれば、予定納税の対象です。
第1期納付額 = 予定納税基準額 × 1/3
第2期納付額 = 予定納税基準額 × 1/3
具体的な計算例
実際のケースで計算してみましょう。
- 前年の事業所得:500万円
- 青色申告特別控除:65万円
- 社会保険料控除:80万円
- 基礎控除:48万円
- 課税所得:307万円(500万 – 65万 – 80万 – 48万)
- 所得税額:207,500円(307万 × 10% – 97,500円)
- 復興特別所得税:4,357円(207,500円 × 2.1%)
- 合計税額:211,857円
- 源泉徴収税額:0円
予定納税基準額:211,857円
第1期納付額:70,619円
第2期納付額:70,619円
所得税の税率と控除額一覧
所得税額の計算には、以下の税率表を使用します。
| 課税所得金額 | 税率 | 控除額 | 計算例(課税所得300万円) |
|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 | – |
| 195万円超~330万円以下 | 10% | 97,500円 | 300万 × 10% – 97,500 = 202,500円 |
| 330万円超~695万円以下 | 20% | 427,500円 | – |
| 695万円超~900万円以下 | 23% | 636,000円 | – |
| 900万円超~1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | – |
| 1,800万円超~4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 | – |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 | – |
会計ソフトを使った予定納税額の確認
freee、マネーフォワード、弥生などの会計ソフトを使えば、予定納税額の見込みを簡単に確認できます。
- freee:確定申告メニューから「税額シミュレーション」で予定納税額を確認可能
- マネーフォワード:「確定申告」→「申告書作成」で前年データから自動計算
- 弥生:「所得税確定申告」→「納税額の確認」で予定納税額を表示
